どんどん逃げてきた人々が入っていく。みんな、ほこりで顔を汚して、不安で疲れた顔をしているよう。なんとか避難場所として指定されている小学校の校庭についてひと安心。
校庭は広いので、上から何かが落ちてくる心配が無いことが何よりも安心した。結さんは、校庭を見渡した。
結さんは、手持ちの水を飲んだ。私は、結さんが水を飲んでいるのを見て、思い出したかのように慌てて水を飲んだ。
隣に座っていた人から声をかけられた。
避難所の人
どちらからですか?
私
1丁目からです。
避難所の人
私は2丁目。小さなマンションなんだけど、前の道路が狭くて、火が出ると逃げるの大変そうだから、周りの状況見るまでと思って、ここに来たの。
結さん
私たちもそうです。前の道路が狭くて。私たちのマンションは3 階建ての小さなマンションなんですが、前の木造のおうちが倒壊していて、怖くなって。
私
大家さんとも話して、様子見も兼ねて、少しでも安心な広い場所に行こうと思って、ここに来ました。
避難所の人
そう。不安よね。さっきまで、あっちの方に煙が上がっていて、火事かしらって心配しているのよ。もう薄暗くなっちゃったから、煙は見えなくなっちゃったわね。でも、赤くなってないということは大丈夫よね…。
結さん
そうですね。大丈夫だと思いますよ。
私
あっ、講堂が解放されるみたいですよ。
結さん
行きましょう。
避難所の本部が設定されたようで、講堂が解放されて校庭にいた人々が少しずつ講堂に入っていく。避難所に受付場所が簡易に設置され、学校の方が主になって各々登録をしていっているようだ。
私
全員入れるのかな…。
私の呟きに、結さんが答えてくれた。
結さん
東京都の昼間人口は約1600万人。夜間人口は1300万人といわれています。でも、避難所は3200所、収納人数は320万人です。
私
えっ!?1600万人で320万人??入れない1200万人はどうなるんですか?
結さん
全員が即、避難所を目指すわけではないですよ。被災が日中でオンタイムなら企業や学校などのコミユニティでの避難が基本ですね。それでも避難者720万人、帰宅困難者800万人といわれています。避難所以外では、校庭にテントはったり、駐車場を車中泊に開放したりですよね。それでもトイレの環境などは整っていませんから、大変ですね。
私
現実的じゃないですよね、それ!
結さん
だから、避難所での避難生活は簡単にはおくれないんです。できるだけ堅牢なマンションなどに住んでいる方は、在宅避難を推奨しています。
私
全然知らなかったです…。
結さん
国も広報活動をされていたとは思いますが、正直広がってはいないですよね。国も現実の数字の重さに、対策が追い付かず、伝えきれない所があるのではないでしょうか。
私
確かに単純に1000 万人以上が困るからといって、被災時に1000 万人収容できる場所なんて簡単には作れないですもんね。でも、もっとなんか方法があったのではって思っちゃいます。
結さん
そうですね。私たちのマンションは小さいですけど、新しいし、まわりに大きな建物はないですが火事さえなければ自宅に帰って、片づけて避難生活ができますよ。大家さんの連絡を待ちましょう。
CHAPTER#05「束の間の休息」
命からがら避難所までなんとか到着。でも、安心したのもつかの間、過酷な環境での避難生活が始まるのです。
東日本大震災では、地震発生から3日目がピークで、468,600人が避難所で生活しました。今後発災が予想される避難所避難者数は南海トラフでは500万人と首都直下地震460万人。
本来生活するべき場所ではないところでの集団生活は、様々なトラブルが当たり前に発生します。それに、避難所の運営は民間、避難者の自治なのです。
上下関係のない無組織での自治が始まります。何の指示、運営形態もないままに、始まるのです。お互いの信頼と協力が要です。