ドアを激しくたたく音で我にかえった。
見知らぬ女性
大丈夫ですか?
私
ぶ、無事です!あっ、痛い!
なんとか応えながら、窓からの明かりを頼りにそのまま歩いたところ、何かを踏んでしまった。床の上は落ちたものが散乱している。ころがっていたスリッパを履きなおし、割れたガラスなどに気をつけながら、玄関にむかった。
廊下においていた雑誌や荷物が崩れていて、玄関に置いていた傘入れも倒れていた。靴棚の扉が開いていて、中から靴が落ちてしまっている。なんとか玄関までたどり着くと、ドアが開きにくくなっていた。扉の向こうの女性に手伝ってもらい、なんとか外へ出ることができた。
隣人さんとはいつもは挨拶程度だった。でもお互いの顔、安全を確認できて、本当にうれしくて泣きそうになった。なにより、独りぼっちではないことが心強かった。
見知らぬ女性
大丈夫ですか?頭から血が出ていますよ。
さっき頭に当たった本で擦り傷ができていた。
見知らぬ女性
傷を見せてください。
見知らぬ女性
擦り傷のようですね。痛みはありますか?
私
痛みますが、なんとか大丈夫そうです。
見知らぬ女性
大きな怪我はなかったようで、安心しました。でも、まだ怪我する危険性がありますから、頭はしっかり保護しましょう。ヘルメットはありますか?
私
ヘルメットは持っていないです…。
見知らぬ女性
そうしたら、キャップなどの帽子は?なかったら雑誌ありますか? スカーフやタオルでもいいので、雑誌を挟んで被るなどで頭を守りましょう。余震でさらに物が倒れたり、落ちてきたりして怪我をしたら危険ですから。
私
ランニングの時使う、キャップがあるはずです。
結さん
何度か、ご挨拶しましたよね。私は隣に住んでいる、佐藤結(ユイ)といいます。
私
きちんとお話しするの初めてですね。わざわざ見にきてくださってありがとうございます。呆然としてしまっていたのですが、声をかけていただいて動き出せました。ありがとうございました。
結さん
いえいえ。こういう時は、助け合いです。本当は私も心細かったので。ほかの部屋にも声をかけましよう。
ふと廊下の先の外を見ると、お向かいの石垣が倒れ、木造家屋が崩れていた。日常の景色とのあまりの違いに唖然とした。とうとう大きな震災が来てしまったのだと痛感した。