災害大国と言われる私たちの国、日本。

いつ災害が起きても不思議ではありません。

一言に災害と言っても、度々起こる大規模な地震だけに留まらず、最近では、台風や豪雨などの災害も増加傾向にあり、私たちの生活は常に災害の危険と隣り合わせになっています。

そんな日本の現状に応えて立ち上がった、防災の一歩目を歩き出してもらうための情報サイト「わたぼうラボ」にご期待いただき、「日本の防災」の中で独自の視点で研究、実践活動をされているお二人の第一人者の方に、ご寄稿をいただきました。

災害の時代とこれからの防災

神戸大学名誉教授・日本防災士会理事長
室崎益輝

日本火災学会賞、日本建築学会賞、都市住宅学会賞、防災功労者内閣総理大臣表彰、兵庫県社会賞などを受賞。日本火災学会会長、日本災害復興学会会長、地区防災計画学会会長、消防審議会会長などを歴任。著書に、地域計画と防火、危険都市の証言、建築防災・安全、大震災以後など。

災害の時代

この1月のトンガの火山噴火に代表されるように、地球規模で何時何が起きても不思議ではない「災害の時代」を迎えています。

日本においては、自然の凶暴化と社会の脆弱化が同時に進行していることにより、災害の激甚化、頻発化、多様化、複合化のリスクが増大しています。地震や火山については、日本列島が活動期にあるということで、首都直下地震や南海トラフ地震などの発生が、間際に迫っています。豪雨については、地球温暖化が進行しているということで、記録的な豪雨に繰り返し見舞われることを覚悟しなければなりません。

それに加えて、新型コロナウィルスなどの感染症も、収まる気配がありません。さらには、昨年末の大阪のビル火災に代表されるような犯罪絡みの人為災害も増える傾向にあります。人為災害ということでは、お風呂の溺死事故や危険物の漏洩事故なども増えています。風呂の溺死事故には、単身世帯の増加という社会構造の変化が、危険物の漏洩事故には、経済の停滞という社会構造の変化が影響しています。

多様な災害が相次いで発生する状況は、異なる災害が同時に起こる、あるいは連鎖的に起こるという複合化をも引き起こしています。感染症が蔓延する中で豪雨災害が起きた昨年の7月豪雨などは、その典型例です。

ところで、自然の凶暴化は自然現象ということもあり、すぐには克服できません。その一方、社会の脆弱化は人為現象ということで、私たちの努力次第で克服することができます。災害のリスクが増大している時代だからこそ、それに向き合うためには、社会の抵抗力を高めなければなりません。災害の進化は防災の進化を求めているのです。

これからの防災

災害の頻発化や多様化は、公衆衛生的な防災対策の進化を求めています。災害の激甚化や複合化は、連携協働的な防災対策の進化を求めています。公衆衛生ということでは、いかなる災害にも向き合えるように、社会や地域の体質改善をはかることが求められます。コミュニティの強化や防災意識の改善が求められます。社会の歪みや誤りを正すことも求められています。

SDGsの目標は、まさにこの社会の公衆衛生にメスを入れるもので、貧困の格差を無くすこと、社会的不公正を正すこと、地球温暖化に向き合うことが、災害の被害を少なくするためにも欠かせません。SDGsの取り組みとともに、コミュニティ防災の取り組みや家庭防災の取り組みも、公衆衛生あるいは日常防災ということで欠かせません。ボトムアップ型の地区防災計画の取り組みが強調されているのは、そのためです。

連携協働ということでは、行政、地域、企業、市民組織の4者が連携すること、地域に存在する自治会、PTA、消防団、老人クラブ、事業所、市民団体などがつながることが欠かせません。消防団員、防災士、保健師、看護師、建築士さらには学校の教員など、地域や防災に知見を有するリーダーが地域防災に参加することが求められています。みんなでみんなのために防災を進めること無くして、大きな自然に立ち向かうことはできません。 このみんなで防災という時に、男女協働や共同参画の視点が欠かせません。社会の歪みを無くすうえでも、女性の力を活かすうえでも、女性の防災への参画が欠かせないのです。男女の違いを配慮した女性の視点からの防災への取り組み、女性の人権に配慮した女性の立場からの防災への取り組みが欠かせないからです。様々な形で、女性が担い手として活躍できる環境をつくることが求められています。

女性よ、かしこくしなやかに生きよう!

東北大学災害科学国際研究所 プロジェクト講師
保田真理

兵庫県生まれ、宮城県在住。大人だけではなく、子供たちの災害対応能力を引き出すために、意識啓発ツールとして「減災」ハンカチや防災・減災スタンプラリーを考案。阪神淡路大震災と東日本大震災の経験から、被害を減らしたいという小さな思いが東北大学減災教育「結」プロジェクトに繋がり,各地を行脚しています。

最近はSDGs17の目標が社会に浸透してきて、ジェンダーの平等は大切な目標ですが、国連が令和3年に発表したジェンダーギャップ指数において、日本は世界の中で120番目に留まっており、G7の中では最低です。現状では、女性に求められる役割は「家事・育児・介護」+「仕事」の位置付けです。平等であるべきなら男性にも同じ役割分担が求められるのですが、現実は、女性にとってけっしてやさしい社会では無いでしょう。

これまでの大災害や近年のコロナ禍において、女性への影響はより大きくなっています。

災害で直接的な被害に遭うだけではなく、その後の復旧・復興期で職を失うなどの2次的な被害に遭う可能性も高いのです。それは、社会のフレームワークを作ってきたのが男性主導だったからだとも言えます。防災計画となるとなおさら、男性主導が際立ってきます。その根底には、災害という危機的状況下において、いかに多くの人命を救うかというところに、フォーカスされているからでしょう。救助する場面を想定すると、そこは当然、力のある男性が2次的な被害を防ぎながら活動する場面になります。しかしながら、一度大災害が発生したら、自分で避難できた人も救助・救出された人も、日常に戻るまでは必ず避難生活という場面がやってきます。そのような場面では、女性のおひとりさまやシングルマザーなど、守ってくれる家族がいなくとも、安全・安心な避難生活ができるように、秩序の維持やお互いを思いやる運営でなくてはなりません。女性の視点、知恵や経験がなくては、多様な被災者に配慮した運営はできません。そこでぜひ、若い女性の皆様にも、万が一災害が発生したら、自分はどのように行動すれば良いのかを「いま」このタイミングで考えて欲しいのです。過去の大災害発生後の避難所では、様々な混乱した状況下で、様々なハラスメントの被害報告もあります。誰もがギリギリの精神状態では、他を思いやる心のゆとりを保つのが困難な状況に陥りやすいのです。どんな時も、孤立することなく周囲と助け合えるように、精神的・物理的な備えが必要になります。精神的・物理的な備えを十分にする時間は、「いま」この時にあります。この時を無駄にせず、自分に必要な備えを考えておく必要があるのです。

災害こそジェンダーの区別なく地域にいる人全てに降りかかってくるものです。そんなときに、「災害だから、非常時だから仕方ない」と被害を甘受はできません。私たち女性の視点、知恵と感性で、自分だけではなく周囲の人も安全に危機は回避したいです。そのためには日頃から日常的に防災・減災を意識する必要があります。毎日忙しく仕事に集中している女性には、わかってはいるけれど、じっくり考えて、対策を進める時間のゆとりも、心のゆとりも無いかもしれません。日常生活の中で、防災・減災対策は、優先順位が高いとは言えないのが現状でしょう。しかしながら、災害に遭遇したら、生活の基盤を根底からひっくり返されることになるかもしれない、とても重大な問題なのです。生命、身体、住居、生活そのものを失いかねません。

大きな災害に直面して、なんとか危険回避ができても、その後にいくつもの危機が待っています。救援の手は災害の規模が大きいほど遠くなります。特に、日頃近くで助けあう家族や友達、仲間との交流がなければ、一人で行動しなければなりません。ライフライン(電気・ガス・水道・交通・通信)などの断絶下を生き延びなくてはなりません。公的支援がくる避難所での生活も、災害発生直後は全てのものが揃うわけでは無く不自由なものになります。避難生活となれば女性にはいっそう厳しい状況です。では、どのように危機回避できるのかというと、これは、そんなに難しいことではありません。例えば、①どんなハザード(災害の危険性=地震・津波・風水害・土砂災害など)が考えられるか想定をする。②災害の種類によって異なるリスク(被害想定=ハザード×自分の住まいや職場の環境など)をきちんと知る。③リスク対応(回避手段・軽減手段・避難・保険で被害を補填など)を考え準備をする。これらの3つができれば、大きな被害は免れます。

どうか、いつどこから襲ってくるのかわからない災害にも、かしこくしなやかに備えてください。

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